‥‥‥★58 良いしがらみ、悪いしがらみとは
■実は利益の源泉である“しがらみ”
「しがらみ」という言葉は、実にイメージが悪い。建設業界の談合体質や官僚の天下り。悪代官と越後屋に代表されるように、一部の人間が利益をむさぼり喰う構図が、すぐに脳裏に浮かびます。
「接待攻撃したのに、指名をはずされた」
「つき合いのある業者に任せたんだけど、手抜き工事で」
と経費浪費、被害増大、利益損失の三大悪癖として認知されます。
密室のしがらみには、競争原理が働きません。競争原理が働かなくなった瞬間から、高コスト体制になります。公共事業における談合や入札時のしがらみは、悪癖、もってのほかです。
しかし、通常、私たちがビジネスを行う自由競争、公正な取引の世界でも、しがらみは存在します。ビジネス・パートナー、お得意様、良きお友だちという言葉にいい換えられてはいますが、利益の源泉でもあり、損失の源泉でもある点は、密室もオープンな世界も同じです。
A社は、B社から商品を仕入れる際は、ビジネス・パートナー関係を利用して、良い商品を仕入れられます。たとえば、B社が良いリンゴを仕入れたとすると、真っ先に電話が入ってくるという関係です。50円のリンゴが100個あれば、品質には1つひとつ差があります。お友だちだからこそ、良いリンゴを回してくれるわけです。
「山田は、いいヤツだから、良いリンゴを回そう」になります。
しかし、そのリンゴをお客さんに売る場合は、しがらみ無用。「1円でも高く売ります」というのが利益の源泉。これが商売の基本です。
50円で仕入れたA級のリンゴを100円で売る、80円で仕入れたB級のリンゴを100円で売る。どちらが儲かるでしょうか? 当然、前者です。お客さんにとっても、良いものが安く買えたと喜ばれ、リピート客が増えます。
■良いしがらみをつくる
携帯電話が爆発的に売れ始めた1990年代後半、「携帯電話 本体価格1円」という広告をよく見かけました。携帯電話を原価無視のタダ同然で販売し、通話料や機種交換の手続きなどから儲ける算段でした。
当時の携帯電話ショップは新規事業ですから、顧客がついてるはずがありません。多くの顧客というしがらみを作るために値引き競争が激化し、ひとりでも多くのしがらみから利益を得ようと、1円ケータイを叩き売ったのです。
人間関係のないフラットの状態では、利益は生まれません。「1円で売る代わりに、儲けは違うところから出すから」と、携帯電話会社と販売店が結託。携帯電話ユーザーを増やすことに注力した結果、ケータイを手放せないユーザーが続出し、一気に利用者が増えました。携帯電話会社は、「携帯電話を売るとオイシイよ」という仕組みづくりに努力したわけです。
公明正大の仕組みづくりです。しかし、それを談合でやるとおかしくなります。接待漬けというのは、すべてそう。毎回毎回、原価割れで商品を納入していたら、商売は成り立ちません。
悪いしがらみはお金の結びつきであり、密室。私利私欲。良いしがらみは心の結びつきであり、オープンで公明正大。同じ「しがらみ」ですが、一歩間違うと、まったく違うことになります。
悪いしがらみと良いしがらみは紙一重です。取引先と仕入れ先、この2つのしがらみを正常に機能させてこそ、しがらみは利益の源泉となります。
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